冬の
フィレンツェはアルノの朝靄とともに始まる。川面から沸き上がる白いヴェールは、小高い山々に囲まれた街全体をおおい、やがて朝ぼらけのなかに
サンタ・マリア・デル・フィオーレ(大聖堂)の尖塔が現れ、
ジョットーの鐘楼や市庁舎の物見の塔が続き、赤褐色の甍の屋根が浮かび上る頃、朝日の光とともに消えていく。そして、花の都と詠われた
フィレンツェの街並が姿を現す。
ボルゴ(村)・サン・ヤコポはベッキオ橋とトリニタ橋の間のアルノ側南岸の川沿いの一帯の名称である。職人さんや小売り商人が多く下町である。朝早くからシャッターの開く音が狭い通りに響き渡る。私の下宿はその通りに面した7階にあった。元モデルというパドローネと大人しい旦那の老夫婦が使わなくなった息子の部屋を貸していた。始めお互い警戒していたが、一月もするとイタリア人特有の人なつこさが表に出てきてすっかり意気投合し、
フィレンツェ滞在を最高のものにしてくれた。
■画像は35年以上も前のもので現状とは大きく異なっている場合もあります。