アテネの外港ピレウスを朝早く出た船は朝靄の中、エーゲ海の島々をぬけ一路クレタに向かう。冬のシーズンは観光客もみあたらず、クルージングというより、どちらかというと北帰行の世界である。それでも海は紺碧に輝き、島影は澄んだ空にくっきりと浮かび上がる。この海がかつてクレタ・ミケーネ文明を育んだと思うと荘厳な気持ちにさせられる。紀元前何世紀と言えば、まだ日本列島は真暗闇の世界で、その当時から輝き続けている海は偉大である。
クレタはミノス王の島である。牛頭人身の怪物ミーノータウロスを閉じ込める迷宮(ラビリントス)を作り、毎年、征服地のアテネから七人の若者と七人の処女を徴発し、生贄として差し出した。それを助けるのがアテネの英雄テーセウスの物語である。この話は、ギリシア文明がエーゲ文明にとって代わったたとえ話として良く知られているが、現実にクレタでクノッソス宮殿を目にすると、神話と歴史の境界線がどこにあるのだろうと思ってしまう。
■画像は30年以上も前のもので現状とは大きく異なっている場合もあります。