ニューヨークを訪れた最大の目的はフランク・ロイド・
ライトの遺作、グッゲンハイム美術館を見ることであった。
セントラル・パークの東側に隣接する高級住宅街にあるこの美術館は、
現代美術のコレクターとして有名な富豪Solomon R. Guggenheimの個人的な所蔵品を飾る場所として、
1943年グッゲンハイムの美術顧問であったHilla Rebay女史から手紙で依頼を受けたFrank Lloyd Wrightが計画し、16年の歳月をかけ死後1年たった1959年に完成した彼の遺作となった作品である。
ライトの後期の作品は、初期の水平線を強調したプレーリー・スタイルや分割に基づく空間構成の手法が薄れ、三角形や楕円、アーチ等幾何学的な図形の有機的な組み合わせによる複合体へと変化して、空間に躍動感を持つようになってきた。バビロニア起源のzigguratを思わせるような螺旋を逆さまに載せたこの美術館の形態は、ある意味で彼の作品の集大成ともいえるべき作品である。
セントラル・パーク側に張り出した低いカノピーの下から館内に入ると、上部にガラスの天蓋を戴いた逆円錐形の巨大なアトリウムの底に出る。エレベーターで最上階(6階)に導かれ、光あふれる大空間の縁を螺旋状に下りてくる。この廊下の右側に沿った展示室もレベルに従って構成されており、
レベイが集めたカンディンスキーやクレー、アルプといった抽象美術、ソロモンの姪にあたるペギー・グッゲンハイムが集めたマティス、ピカソ、レジェ、ドローネー、モンドリアンなどの秀作や、ペギーの夫のマックス・エルンストをはじめとして、デ・キリコ、
ミロ、ダリ、マグリット、タンギーなどの超現実主義作品などが飾られている。
そのほかにも、ラウシェンバーグ、ウォーホルなどの20世紀後半のアメリカ美術もあり、1日滞在しても退屈することはない。
ニューヨークの四角い高層ビルが建ち並ぶ一角と
セントラル・パークの緑との境界上に、白い柔らかな曲線のかたつむり姿がその存在感を際立たせたこの建物は
ライトの最高傑作の一つだと言えよう。ただ、美術館としては天井が低く(螺旋形の構造、スロープによる階高の制限)傾斜による視覚の幻惑等、必ずしも成功しているとはいえない。
それは、北側の円形部分が当初、アパートメントとして計画されていたことからも分かるように、あくまでも個人の収蔵館としての役割を意図していたことによるもので、ソロモンの死後もペギーの収集や、1976年のタウンハウザーの寄贈等により、収蔵品が増え続け、公開され、多くの鑑賞者が訪れるようになるとは
ライトも予想していなかったと思われる。